isatinはヒトの尿やラットの体内から発見された分子量約147の小分子物質で、カテコラミンの代謝を担うmonoamine oxidase(MAO)の内因性阻害因子として知られている。また、脳や心臓の虚血再灌流障害では、MAOの酵素活性に由来する活性酸素種が大きく寄与していると考えられている。一方、これまでに我々は、虚血性急性腎障害の病態発症に腎交感神経系の過剰な亢進が関与していることを明らかにしている。そこで本年度は、isatinを用いて腎虚血再灌流障害における腎内ノルエピネフリン(NE)と活性酸素種の関係あるいは腎内NEと炎症マーカーの遺伝子発現の関係を検討した。その結果、溶媒を投与した対照群では虚血再灌流処置1日後において血中尿素窒素あるいは血清クレアチニンの顕著な上昇とクレアチニンクリアランスの有意な減少などの腎機能の低下や、蛋白円柱、鬱血・出血、尿細管壊死などの組織障害が観察され、isatinはそれらの腎機能低下あるいは腎組織障害を用量依存的かつ顕著に悪化した。また、isatinは対照群で見られた再灌流1日後の腎組織中O_2-産生量の増加を有意に抑制したが、対照群で見られた腎静脈血漿中NE量の増加をisatinはさらに増大させた。一方、isatinはマクロファージの浸潤マーカーとして知られるmonocyte chemoattractant protein 1(MCP-1)や、細胞障害性サイトカインであるTumor necrosis factor α(TNF-α)の腎組織中mRNA発現量に影響を及ぼさなかった。以上の結果より、isatinは腎虚血再灌流障害をさらに悪化させた。その腎障害の悪化には、炎症反応の増強というよりはむしろ腎内NE濃度が上昇したことによる、局所の血流不全時間の延長が増悪因子のひとつであると考えられる。
|