これまでの研究で、カテコラミンの代謝を担うmonoamine oxidase(MAO)の内因性阻害因子として知られているイサチンが腎組織中活性酸素種(ROS)産生増加を抑制するにもかかわらず、腎内ノルエピネフリン濃度を上昇させることにより腎虚血再灌流障害をさらに悪化させることを報告した。そこで、腎虚血再灌流障害に対するイサチンの作用がMAOAあるいはMAO_Bのどちらを介したものかを検討するため、選択的MAO_A阻害薬モクロベミド、選択的MAO_B阻害薬セレギリンを用いて検討した。その結果、虚血再灌流障害に対して選択的MAO_A阻害薬モクロベミドは、イサチンの効果と同様、再灌流後の腎内ノルエピネフリン濃度を上昇させることにより腎虚血再灌流障害をさらに悪化させたが、選択的MAO_B阻害薬セレギリンは腎内ノルエピネフリン濃度あるいは腎障害に対して影響を及ぼさなかった。したがって、イサチンはMAO_Aを阻害することにより腎虚血再灌流障害に対して増悪作用を示すことが明らかとなった。次いで、イサチンの腎内ノルエピネフリン濃度上昇を介した腎障害のさらなる悪化にはアドレナリンα受容体が関与しているのではないかと考え、イサチンによる腎障害増悪作用に対する非選択的α受容体拮抗薬フェントラミンの影響を検討した。その結果、非選択的α受容体拮抗薬フェントラミンはイサチンによる腎障害のさらなる悪化を抑制した。以上の結果より、イサチンはMAO_Aを阻害することにより、腎内ノルエピネフリン濃度を上昇させ、アドレナリンα受容体を介して腎虚血再灌流障害をさらに悪化させたと考えられる。 慢性腎臓病においても同様に、腎障害の発症・進展に腎内ノルエピネフリン濃度の上昇が関与していることを明らかにしており、現在、腎部分摘除(5/6腎摘除)慢性腎不全モデルを用いてアドレナリンα受容体拮抗薬の効果を検討中である。
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