【背景】表皮内神経線維密度(IENFD)は、小径感覚神経障害の代表的な形態学的マーカーである。これまで我々は、10週齢、24週齢および39週齢の2型糖尿病Zucker diabetic fattyラットのIENFDは、いずれの週齢においても同週齢の正常ラットのIENFDと有意な差を示さないことを確認している。また、1型糖尿病動物モデルであるストレプトゾトシン誘発糖尿病(STZ-DM)ラットにおいては糖尿病発症早期(~1-2週後)から痛覚異常を認めているが、これまでに示されているいくつかの研究における報告(STZ-DMラットではIENFDは低下する)とは異なり、STZ-DMと正常ラットとの間にIENFDの差を認めなかった。したがって、これらの1型および2型糖尿病ラットモデルに早期から認める進行性の痛覚異常は、小径感覚神経の形態異常ではなく機能異常の進行を反映している可能性が高い。【目的】血糖値に影響を与えない少量のインスリン投与がSTZ-DMラットの末梢神経インスリンシグナルに与える影響について解析を行った。【方法】STZ-DMラットに糖尿病6週目から1日1単位のインスリンを6週間にわたり投与した(I-DMラット、n=11)。ペレットを埋め込まず週齢を合わせたSTZ-DMラット(U-DMラット、n=10)および非糖尿病ラット(Cラット、n=12)を対照とした。【結果】実験終了時、U-DMラットは有意な痛覚異常を示したが、I-DMラットには有意な痛覚異常を認めなかった。U-DMラットはCラットに比し坐骨神経リン酸化インスリン受容体(IR)およびリン酸化/総IR発現比が有意に低下し、リン酸化Erk1/2およびリン酸化/総Erk1/2発現比は有意に上昇していた。I-DMラットではU-DMラットに比しリン酸化IR、リン酸化Erk1/2およびリン酸化/総Erk1/2発現比が有意に低下した。【総括】これらの所見は、血糖値に影響を与えない少量のインスリン投与が、STZ-DMラットの末梢神経インスリンシグナルの調節、特にErk1/2の非活性化を介して神経機能異常を改善する可能性を示唆している。
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