交付申請書に記載した動物モデルの末梢神経組織を用いたインスリンシグナル解析は、解析に用いた動物モデル(インスリン欠乏性ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット、インスリン抵抗性肥満Zuckerラット、2型糖床病ZDFラット)すべてに表皮内神経線維(IENF)の脱落を認めなかったこともあり頓挫した。 本年度は、皮膚生検の同意を得た2型糖尿病患者87名においてIENF密度を測定し、糖尿病性神経障害(神経障害)の病期進行に従ってIENF密度の低下が認められるか検討を行った。「糖尿病性神経障害を考える会」が提唱する病期判定のための総合評価表では、患者の末梢神経障害の徴候に基づいて病期をIからV期まで分類している。神経障害がないとみなされるI期患者の平均IENF密度は、健常例22名の平均IENF密度と比べて有意差を認めなかったが、アキレス腱反射の低下・消失、下肢振動覚低下、あるいは両者を認めるII期患者では有意な平均IENF密度の低下を認めた。しかしながら、感覚障害や自律神経障害を呈して病期がIII期以上へ進行しても患者の平均IENF密度に更なる低下は認められなかった。この際、下肢振動覚低下の有無ではIENF密度に差を認めなかった。一方、アキレス腱反射が正常な患者では32例中29例でIENF密度の低下(<5/mm)はなく(陰性予測値91%)、アキレス腱反射が低下・消失しておりIEMF密度の低下を示したのは55例中38例であった(陽性予測値69%)。すなわち、アキレス腱反射が正常であれば、高い確率でIENF密度の低下を否定できる。今回の検討では、2型糖尿病患者のIENF密度低下に関連する因子として以下の病態が挙げられた。1)アキレス腱反射低下・消失かつ下肢の自覚症状、感覚障害、あるいは脛骨神経F波最短潜時の延長(>55msec)、2)20年以上の糖尿病歴、3)インスリン治療(>20単位/日)、4)自律神経障害、5)筋萎縮、6)高度QOL障害、7)前増殖・増殖性網膜症、8)頭性蛋白尿
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