研究課題
基盤研究(C)
皮膚生検による表皮内神経線維(IENF)解析は有痛性感覚神経障害の診断・評価に用いられる新規検査法である。近年、この皮膚生検を用いた解析により、前糖尿病状態である耐糖能障害(IGT)患者においても初期糖尿病神経障害患者と同様にIENFの脱落を伴う有痛性感覚神経障害を発症することが示されている。IGTはインスリン抵抗性に関連する代謝異常の重複したメタボリックシンドロームの構成要素の一つである。有痛性感覚神経障害患者では正常者に比し、インスリン抵抗性に伴う血清インスリン値の上昇が示されており、インスリン代謝異常と小径線維機能異常との関連性が示唆される。しかしながら、インスリン抵抗性2型糖尿病に合併する神経障害の各病期において、どのようにIENF脱落が進行し、いかなるインスリンシグナル関連遺伝子の発現変化が生じているのかは未だ解明されていない。本研究では、2型糖尿病ZDFラットに認められる神経障害の進行に伴うIENF密度の経時変化と末梢神経内インスリンシグナルの解析を行った。明らかな高血糖を示す前の8-10週齢のZDFラットは、代償性の高インスリン血症と共に温痛覚過敏を示した。また、代償性の高インスリン血症が消失し高血糖を示す18週齢以降では、機械的痛覚過敏の発症と温痛覚過敏から温痛覚鈍麻への進行を認めた。これらの侵害受容反応の異常の出現にもかかわらず、23週齢および39週齢のZDFラットのINEF密度に低下は認められなかった。一方、10週齢のZDFラットでは同週齢のやせ形ラットの比し、統計学的に有意ではないものの26%のIENF密度の上昇を認めた。免疫蛍光染色では、23週齢のZDFラットの後根神経節神経細胞におけるインスリン受容体およびリン酸化インスリン受容体の免疫活性が有意に低下していた。また、ウエスタンブロット解析では、ZDFラットの坐骨神経におけるインスリン受容体およびAkt蛋白含量がそれぞれ70%および25%低下していたが、p44およびp42MAPキナーゼのリン酸化比率はそれぞれ33%および52%上昇していた。以上、本研究の結果から、ZDFラットは進行性の侵害受容反応の異常と末梢神経内インスリンシグナル異常を示すが、39週齢まで皮膚神経支配の低下はないことが示された。2型糖尿病に合併するIENF脱落の研究にこのラットモデルを用いるのは適切でない可能性がある。
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