播種性血管内凝固症候群(DIC)の本態は、全身性持続性の血管内凝固活性化であり、全身の主として細小血管内に微小血栓が多発する。DICは、従来凝固や線溶からの検討が多かったが、血管作動性物質、サイトカイン、アポトーシスなど循環動態、臓器障害、炎症などに影響を与える可能性が高い物質の検討はなされてこなかった。これまでの我々の検討から、LPS誘発DICモデルにおいては、エンドセリン(ET)が著増し一酸化窒素代謝産物であるNOXも中等度上昇した。一方、組織因子誘発DICモデルにおいてはETの上昇は見られなかったが、NOXは著増した。 今年度は、DICにおける凝固と炎症のクロストークを遮断する目的で、エリスロポエチン製剤(EPO)に注目した。EPOは敗血症モデルにおいて臓器障害や臓器細胞のアポトーシスを抑制する可能性が指摘されているが、DICモデルでの検討はこれまで皆無であった。今回の実験で、EPO投与によりLPS投与開始後にDダイマーの有意な抑制が認められた。また、EPO投与により臓器障害、特に肝障害および肝細胞アポトーシスが有意に抑制された。ただし、血管作動性物質や炎症性サイトカインへの影響はみられなかった。EPOに低分子ヘパリンを併用すると、凝固異常の改善とともに、肝細胞アポトーシスが更に改善された。 以上より、アポトーシスを標的としたEPO薬物治療が、DICに伴う臓器障害に対して有効であると考えられた。DICに対する治療は、従来は抗凝固療法が主体であったが、抗凝固以外の観点からのアプローチも期待できると考えられた。
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