研究概要 |
本研究では,測定試薬との反応に起因する異常反応を示す2例の異常免疫グロブリンについて,どのような反応機序で測定系に影響を及ぼしているのか解明することを目的とする。平成22年度は3つの実施計画をたて解析を行った。まず,(1)寒天成分の硫酸基と反応するmonoclonal IgG1の分子性状を明らかにするため二次元電気泳動を行った。その結果,分子を構成するγ1鎖はpI9.4,分子質量54kDa,κ鎖はpI5.3,分子質量26kDaのスポットとして観察され,κ鎖は等電点,分子質量とも正常κ鎖と相違がみられなかった。しかし,γ1鎖は正常γ1鎖とほぼ同じ分子質量であるにも関わらず,等電点はかなり塩基性に傾いていることが確認された。次に,(2)電気泳動で誤判定につながる寒天成分との非特異反応を阻止するため,monoclonal IgG1と硫酸基との結合解離実験を行った。monoclonal IgGlと硫酸基の結合はイオン結合である可能性が考えられることから,緩衝液中のNaCl濃度を段階的に調製し電気泳動により結合解離の有無を確認した。その結果,NaCl濃度5mM/LまではMバンドを観察することができなかったが,8mM/L以上でmonoclonal IgG1は明瞭な単一バンドとして確認されることが判明した。次に,(3)は研究対象のもう1例,酵素法による総ビリルビン値がマイナス(-0.67mg/dl)で直接ビリルビン値(0.13mg/dl)よりも低値を示す原発性マクログロブリン血症例である。測定試薬との反応性を確認したところ,患者血清に第1試薬(0.2%SDS,および0.2%コール酸ナトリウムを含むリン酸緩衝液)を添加した場合にのみ白濁現象を認め,免疫電気泳動によりその異常蛋白質はmonoclonal IgMであることが確認された。そこで,monoclonal IgMを精製し,個々の試薬成分について添加実験を行った。その結果,0.2%SDSのみにて白濁沈殿物の形成を認めたことから,monoclonal IgMと反応する試薬成分はSDSであることが確認された。
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