研究概要 |
臨床検体中の酵母真菌の存在様式を,培養することなく直接解析する目的で,尿中酵母真菌を(1)すべての酵母真菌を染色するthiazole orange (TO)と(2)傷害された細胞膜のみを通過するpropidium iodide (PI)の2種類の蛍光プローブで染色し,フローサイトメトリ法で分画定量した。蛍光顕微鏡の観察から,TOに加えPIで強く均一に染色されたnon-vital,dead細胞と,PIの染色が細胞輪郭にとどまるvital細胞が鑑別された。フローサイトメトリ法でふたつの蛍光シグナル強度を二次元解析すると,vitalとnon-vital細胞群に加え,その中間に分布するinjured細胞群が分画された。臨床尿検体の解析では,易感染にないnon-compromised患者ではほとんどがinjured細胞群に分布し,non-vitalおよびvital細胞群は低率であった。他方,易感染にあるcompromised患者では,vital細胞群の比率が有意に高かったが,患者の病態で分布比率は個々に変動した。また,抗真菌薬投与中の悪性腫瘍治療中患者を経時的に解析した結果,抗真菌薬投与中はvital細胞群の比率が著しく減少し,ほとんどの酵母真菌はinjured細胞群に分画されたが,投与中止後すみやかにvital細胞群が著増した。逆に,ステロイド・パルス療法中の自己免疫疾患の患者では,抗真菌薬を使用しているにもかかわらずvital細胞群が多くを占め,その後ステロイド内服のみで抗真菌薬を中止した後ではvital細胞群はほとんど観察されず,non-compromised患者と同様,injured細胞群とnon-vital細胞群に分画された。尿中酵母真菌の存在様式は,患者の病態,易感染性,抗真菌薬を含む治療により変動し,予後予測の指標ともなり得ることが示唆された。
|