本申請研究は、カドミウムと環境化学物質の複合影響について、実験的に検討することを目的としている。わが国は環境中カドミウム濃度が諸外国に比べて高値であり、われわれは環境中から常に低濃度のカドミウム曝露を余儀なくされている。そのため、生体が低濃度カドミウムに曝露された際に、他の環境化学物質に対する感受性を明らかにすることは重要な課題である。 ヒトリンパ腫細胞株U937細胞を用いて、低濃度カドミウムで前処理した時の高濃度カドミウム誘発アポトーシスに対する感受性の変化について検討した。ヒトリンパ腫細胞株U937細胞は、アポトーシスに対して感受性が高く、50マイクロモルの塩化カドミウムを12時間添加するとアポトーシスが誘導される。その分子機構として、細胞内reactive oxygen species(ROS)の上昇、JNKのリン酸化、カスパーゼ3の活性化が関与していることを明らかにした。一方、U937細胞をあらかじめ、アポトーシスを誘導しない1マイクロモルのカドミウムにて72時間前処理すると、50マイクロモルのカドミウムにより誘発されるアポトーシスに対する抵抗性を獲得した。その分子機構を検討すると、カドミウムの前処置により、ROSの産生とJNK活性化が抑制されていた。さらに前処理により、50マイクロモルのカドミウム単独処理により生じるMc1-1(anti-apoptotic Bc1-2protein)の発現低下、Bim、Noxa、tBid(pro-apoptotic proteins under the Bc1-2family)の発現上昇が抑制されることが明らかとなり、細胞のアポトーシス感受性に影響を与えるBc1-2ファミリーの蛋白発現が影響を受けていた。 本研究により、低濃度力下ミウム曝露は、細胞のアポトーシス感受性に影響を及ぼすことが明らかとなった。カドミウムの生体影響・リスク評価を行ううえで、重要な知見を提供するものと思われる。
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