本研究は、下記の解明を目的とする。(1)中皮腫患者について:(1)職業歴、喫煙歴等。(2)肺内の石綿と非石綿繊維の種類別の濃度、長さ、太さの経年的変化。(2)非石綿疾患患者について:同じく(1)、(2)を明らかにする。(3)石綿濃度と非石綿繊維濃度との関係:経年変化が、石綿と同様または異なる非石綿繊維の種類。(4)中皮腫患者と非石綿疾患患者との比較:石綿、非石綿繊維の種類別の濃度、長さ、太さの差。(5)中皮腫患者の肺内石綿濃度の経年的減少の理由:4つの想定理由((1)作業環境改善による石綿曝露量減少、(2)石綿曝露年数の短縮、(3)石綿の溶解・除去による肺内残留量の減少、(4)非職業的生活環境での石綿曝露量の減少)のうち(2)、(3)、(4)の寄与程度を評価。(6)中皮腫が少量の石綿曝露でも多数発生する可能性:(5)で「石綿の溶解・除去による肺内残留量の減少」の寄与小の場合、近年の患者における石綿累積曝露量減少が示唆される。(7)非石綿繊維の中皮腫発生への関与:(3)とて(4)から、非石綿繊維の関与を推定。以上より、肺内石綿・非石綿繊維濃度が低い中皮腫患者の増加とその理由を解明する。 平成23年度には、下記を実施した。1.中皮腫3例、非石綿疾患5例の肺試料を収集した。2.患者・家族からの聴取と診療録等から、石綿及び他の粉じん曝露歴、喫煙等に関する情報を得た。3.肺試料を低温灰化し、透過型分析電子顕微鏡により石綿・非石綿繊維の同定、計数、サイズ計測を行った。4.これらのデータと既存のデータをあわせて、中皮腫患者と非石綿疾患患者の肺内の石綿及び非石綿繊維の種類別の濃度、長さ、太さとそれらの経年的変化を解析中である。1970年代以来減少傾向にあった中皮腫患者の肺内石綿濃度が2000年代にさらに減少している等、興味深い結果が得られた。
|