好乾性真菌アスペルギルスは、寝室や居間など、我々が日常的に過ごす空間で多く検出されるカビである。ヒトへの影響のひとつとして、吸入によるアレルギー疾患の発症や増悪が懸念されている。本研究では、アトピー性皮膚炎(AD)モデルマウスを用い、長期経気道曝露によるAD様症状への影響を検討した。NC/Nga系雄マウスをvehicle群、アスペルギルス群、AD群、AD+アスペルギルス群の4群に分けた。アスペルギルス群とAD+アスペルギルス群には0.3μgのアスペルギルス抽出物を3週間毎に8回、気管内投与した。vehicle群とAD群には溶媒の生理食塩水を同様に気管内投与した。最終気管内投与の5日後から、vehicle群、アスペルギルス群には溶媒を、AD群とAD+アスペルギルス群にはAD誘発のためにダニアレルゲンをマウス耳介皮下に反復投与した。その結果、AD+アスペルギルス群は、AD群よりもかひ・びらん形成を多く呈し、皮下組織では脱顆粒像を示すマスト細胞が顕著に増加していた。また、好酸球浸潤、血清中総IgE値、抗原特異的IgG_1抗体価も上昇する傾向を示した。皮膚組織中サイトカイン・ケモカイン産生を測定したところ、I型アレルギーに関連して産生されるIL-13、MIP-1αが増加する傾向を示す一方、これらの反応を拮抗的に抑制するIFN-γは低値を示した。以上の結果から、アスペルギルス抽出物の長期経気道曝露により、アトピー性皮膚炎様症状が増悪することがわかった。この増悪には抗体価の上昇や局所におけるI型アレルギー反応の亢進が関与していることが明らかとなった。本研究の結果から、好乾性真菌アスペルギルスを長期間、吸入することによりアトピー性皮膚炎が増悪する可能性が示唆された。
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