ICR系雄性マウスに吸入曝露したユーロピウム酸化物の臓器分布を調べた。平均粒径5および1μmの酸化物粒子を、15mg/m^3、7hrs/日、5日/週で、1または4週間曝露し、翌日、4週、12週および1年後に1群5匹ずつを解剖し、採取した肺、肝臓、腎臓、脾臓、下枝脛骨を分析した。試料の一部を硝酸-過酸化水素を用いて酸分解し、ICP-MSでEuを定量した。Euは主に肺に沈着し、その濃度は、1週間曝露<4週間曝露、5μm径<1μm径であり、曝露終了翌日において50~500μg/g wet、4倍の曝露期間で濃度は約4倍、1/5の粒子径で濃度は約2.5倍であった。曝露終了後、濃度は経時的に減少した。肺の生物学的半減期は曝露条件により異なり、1μm径4週間曝露群では1年後でも30%程度のEuが肺に残存した。投与終了翌日において肺の1/100以下という低濃度であったが、肝臓、腎臓、脾臓、骨にもEuが検出された。肝臓では、肺と同様の曝露期間や粒子径の影響と経時変化が認められた。一方、骨は曝露終了後、経時的に濃度が微増し、1年後においても、翌日の8割以上のEuが検出され、肺や他の臓器からの骨へのEuの移行と、長期間にわたる蓄積が起こることが示された。肺の病理所見では、若干のマクロファージの増加が観察されたが、炎症は認められなかった。昨年度に報告したセリウム(Ce)の酸化物は。肺に沈着するが他の臓器にはほとんど移行せず、骨への蓄積も認められなかったことから、EuとCeの相違点が明らかとなり、物理化学的な性質が類似している希土類元素であっても、元素の種類により体内挙動が異なることがわかった。肺におけるマクロファージ増加数と投与元素濃度の関係には元素により異なり、また、肺に残存している粒子の状態も元素により異なることが示唆された。Eu、Ce共に肺への毒性は低いと考えられるが、肺における長期残存や、骨への蓄積の可能性を考えると、微粒子を取り扱う産業現場では粉塵量低減措置などの安全策が望まれる。今後、さらに肺における局在状態と化学形態についての研究に発展させる予定で準備をすすめている。
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