本研究は(1)甲状腺ホルモンや甲状腺ホルモン受容体に結合することができるリガンド様作用を有する化学物質が受容体に結合後、受容体タンパク質が分解する過程の解明、(2)(1)における受容体タンパク質の分解を利用した新規バイオアッセイ系の開発、(3)(2)のバイオアッセイ系を利用し農薬や食品添加物、食品含有物質の有する(抗)甲状腺ホルモン(様)作用を明らかにすることを目的としている。平成23年度はtransientにHEK293細胞で発現させたヒト甲状腺ホルモン受容体α1(TRα1)とGFP(green fluorescent protein)の融合タンパク質(TR-GFP)の蛍光を指標として、甲状腺ホルモン添加による蛍光強度の低下がTR-GFPタンパク質のプロテアソームを介した分解によるものか否かについて、プロテアソーム阻害剤であるMG132を使用して検討した。数nM~数μM程度のMG132は培養細胞内でプロテアソームを阻害するとされているが、本バイオアッセイ系においては、25nM MG132を甲状腺ホルモンと同時に添加することにより、甲状腺ホルモンによるTR-GFPの蛍光強度の低下を抑制した。高濃度の場合はMG132による細胞障害が認められたが、本研究により甲状腺ホルモンによるTR-GFPの分解にはプロテアソーム系が関与することが示唆された。さらに、MG132による蛍光強度の低下抑制効果が甲状腺ホルモン添加時期により異なることから、現在、甲状腺ホルモンと受容体タンパク質の結合と分解の時間経過等に関してより詳しく検討している。また、輸入食品等から違法農薬として検出されている化学物質の中で内分泌系への影響が懸念されるatrazineについて、甲状腺ホルモン系への影響を従来の甲状腺ホルモン受容体の転写活性化を指標としたバイオアッセイ系において検討した結果、甲状腺ホルモンによる転写活性化をさらに増強することを明らかにした。現在この化合物に関してもTR-GFPの分解に及ぼす影響を検討している。
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