これまでの環境化学物質の健康リスク評価は、成人の生理学に基づいて行われてきているが、小児の生理学に基づいたリスク評価の体系は全く整備されておらず、それに向けての着手が急務である。環境化学物質による小児への影響に関する疫学調査も実施され、その影響を懸念する発表がなされてきているからである。 近年、環境に存在する化学物質による発達期中枢神経系への影響について動物実験の報告が相次いでいる。こうした中、私たちはラット多動性障害について報告してきている。多動性障害は、多因子性疾患として捕らえられてきており、遺伝的素因と環境因子の何らかの相互作用によるものと考えられてきている。そこで、本研究では環境化学物質によるラット多動性障害のエピゲノムからのアプローチにより解析した。 ○エピジェネティック修飾試薬を用いた陽性試験: エピジェネティック修飾試薬の慢性曝露(3mg/kg/日)を行うために、浸透圧カプセルをラットの皮下に埋め込み、曝露後、自発運動量を測定した。その結果、ラットの自発運動量が有意に亢進することが明らかになった。この系を更に時系列を拡大して実施すると、本修飾剤により、自発運動量が低下することが明らかになった。すなわち、ラットの自発運動量の調節は、エピジェネティックな作用によって行われることが初めて明らかになった。また、ターニングポイントが存在することは、実験系の時系列を厳密に設定しないとデータがばらつきやすくなることを示唆している。
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