これまでの環境化学物質の健康リスク評価は、成人の生理学に基づいて行われてきているが、小児の生理学に基づいたリスク評価の体系は全く整備されておらず、それに向けての着手が急務である。環境化学物質による小児への影響に関する疫学調査も実施され、その影響を懸念する発表がなされてきているからである。 近年、環境に存在する化学物質による発達期中枢神経系への影響について動物実験の報告が相次いでいる。こうした中、私たちはラット多動性障害について報告してきている。多動性障害は、多因子性疾患として捕らえられてきており、遺伝的素因と環境因子の何らかの相互作用によるものと考えられてきている。そこで、本研究では環境化学物質によるラット多動性障害のエピゲノムからのアプローチにより解析した。 ○DNAアレイ法を用いたロテノンによるラット多動性障害の分子機構の解析 生後5日齢の雄性ラットにロテノンを曝露し、多動性障害をきたしたラットの中脳よりRNA抽出し、DNAアレイ法に供した。ロテノンを曝露していないラット中脳を対照とした。対照ラット中脳における遺伝子発現量を基準に2倍以上の変動を統計的に有意とし解析した。その結果、運動を司るドーパミン神経情報伝達経路を修飾する分子の遺伝子が有意に変動した。 つまり、これまでの本研究の知見と今回の成績から、ラットの運動がエピジェネティックな影響を受ける可能性が示唆された。
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