研究概要 |
胎児期の喫煙曝露と化学物質に対する遺伝的感受性の個体差が出生時体重低下やSGAに関与することはいくつかの報告があるが,乳幼児期や学童期の神経行動発達への影響についてはまだ十分な検証がされていないことから,2002年に立ち上げた出生コホートの約500名の妊婦とその児からなる対象集団において胎児期における喫煙曝露と母親の遺伝的感受性素因による交互作用が小児神経発達に及ぼす影響を検討する。質問紙調査で把握している社会経済的状況,妊娠期の栄養状態,飲酒,喫煙などの生活習慣と出生後の養育環境および診療録から収集した分娩,出生時の母児の状態,在胎週数,新生児体格等の記録を総合的に解析した。インフォームドコンセントを経て得られた末梢血中の白血球からDNAを抽出し,たばこ煙中化学物質として多環芳香族炭化水素類(PAHs)の代謝・解毒酵素であるチトクロムP450(CYP),グルタチオン転移酵素(GST)の遺伝子多型やニトロサミン類などの活性に関与する酵素の遺伝子多型をReal-time PCR装置を用いたTaqMan法で解析した。乳幼児期の神経行動発達評価には生後18ヵ月時に直接検査であるベイリー乳幼児発達検査(BSID-II)を実施した。胎児期の喫煙曝露と母親の遺伝的感受性素因が18ヵ月児の心理発育指標(MDI)および心理運動発達指標(PDI)に及ぼす影響を検討したが有意な関連は認められなかった。今後は,たばこ煙中化学物質代謝に関与する他の遺伝子多型の解析,生後7ヵ月時のファーガン乳幼児認知機能検査(FTII)や生後42カ月時の認知機能検査(K-ABC)の解析を行ない,胎児期の喫煙曝露が小児神経発達に及ぼす影響について検討する。
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