研究概要 |
今年度は,データ解析とそのとりまとめ,国内外での学会発表等を行った。 トリメトプリム,スルファメトキサゾール,アモキシシリンの水中濃度が総合的に最も高かったのは中流のD地点であった。当初,下流域ほど薬剤濃度が上がると考えていたが,抗生剤濃度と採水地点および水処理施設からの距離との間には有意な相関は認められず,水処理施設でこれらの薬剤が適切に排除されていない可能性も示唆された。また,下水路等を経ない魚類等の養殖池などにおける抗生剤の影響は否定できないが,使用実態を究明することはできなかった。養殖池における抗生剤の使用実態把握が困難であることは,欧米でも指摘されており日本のみならずグローバルな課題となっている。 最上流地域から下流までの10地点における抗生剤濃度と,各地点で採取した水から得た細菌検体の耐性発現状況との間に有意な相関は認められなかった。LC-MS/MSによる水中の抗生剤濃度がいずれも検出限界未満であったA,B,Cを含む全地点でイミペネム(IPM)耐性菌が,またC地点を除く全ての地点でタゾバクタム+ピペラシリン(TAZ/PIPC)耐性菌が確認された。更に,全地点におけるテトラサイクリン(TC)濃度は,いずれも検出限界未満であったにもかかわらず,TCに対する耐性獲得が7地点において確認された。 IPMおよびTAZ/PIPCといったカルパペネム系薬剤が家畜飼育や養殖等で使用されたという報告は,海外でもほとんどなく,医療施設や患者の居る家庭から下水中に排泄されたと考えるのが妥当であろう。カルバペネム系薬剤耐性に加えて,筆者が2006年に実施したスマトラでは確認できなかったキノロン系薬剤に対する耐性菌も確認されたことから,本研究サイトである多摩川における多剤耐性レベルが想定外に高く,ヒトの健康を脅かす状況に達していることが示唆された。Aeromonas sp.やE.coliなどを抗生剤による汚染の指標とするモニタリング体制の構築など適切な対策が早急に必要である。
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