亜鉛は約300余種の酵素の活性中心元素として働いている必須微量元素である。近年、必須微量元素欠乏、特に亜鉛欠乏は、老化や生活習慣病に深く関係していることが明らかにされつつある。昨年度は、老化によって促進される発癌が、亜鉛欠乏でも促進されるのかどうか、変異原性試験を用いて検討し、亜鉛欠乏は、酸化ストレスを介して発癌リスクを上昇させることを証明した。本年度は、老化によって増悪する高血圧が、亜鉛欠乏によって同様に悪化するのかどうか、高血圧自然発症ラットを用いて検討した。標準食あるいは亜鉛無添加食を高血圧自然発症ラットに等量ずつ4週間与え、標準食モデルあるいは亜鉛無添加食モデルを作製した。食事療法開始前、食事療法開始2週間後、4週間後にPE-50ポリエチレンカテーテルを右大腿動脈に挿入/留置し、収縮期血圧・拡張期血圧・平均動脈圧を測定した。標準食モデルでは血圧に変化は認められなかったが、亜鉛無添加食モデルでは、時間依存的に血圧が上昇した。食事療法終了時(4週間後)、血管拡張物質NOの合成酵素阻害剤であるL-NAMEをPE-50ポリエチレンカテーテルから投与すると両群の血圧は同レベルまで上昇した。同様に、活性酸素消去剤であるTempolを投与すると両群の血圧は同レベルまで低下した。これらの結果は、血管拡張物質NOと活性酸素は血圧の調節に関与することを指摘する。近年、NOと活性酸素が非酵素的に瞬時に反応(peroxynitrite形成)し、NOが消費され血圧が上昇することが知られている。今回の結果から、亜鉛欠乏は、活性酸素の産生を亢進させ、血管拡張物質NOを消費することによって高血圧を悪化させることが示唆される。
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