これまでの幾つかの研究で、尿中ナトリウム排泄量の増加は、脳・心血管病の予知因子であるという報告がなされている。尿中ナトリウム排泄量の増加が糖尿病や高血圧のリスクを高めるという疫学研究の報告もあり、尿中ナトリウム排泄量の増加とメタボリック症候群の各コンポーネントには有意な関連が存在することが示唆されている。しかし、将来のメタボリック症候群への進展を検討した長期的な縦断研究はこれまでになされていない。 我々は、福岡県田主丸町に於いて、肥満の少ない時期(1978-1980年)に約3000人の一般住民を対象に大規模疫学検診を行った。その際、受診者の1/3にあたる約1000人の住民に同意を得て、24時間蓄尿を行った。横断研究では、尿中ナトリウム排泄量が多い人ほど高血圧が多いという結果を報告した。今回、その30年後である2009年に同地区で再び住民検診を行い、肥満の少ない集団においても尿中ナトリウム排泄量が将来の肥満や糖代謝及び脂質代謝異常に有意な影響を与えていることを、悉皆性の高い疫学研究で明らかにしようと試みた。 2009年春より福岡県田主丸町川会、柴刈、竹野地区において住民検診を開始し、夏を挟んで、晩秋まで検診を行なった。腹囲径を含めた身体測定、血圧測定、心電図、心エコー、頚動脈エコー検査を行なった。また、採血により脂質値、血糖値を含めた一般生化学検査を行なった。Food frequency法による栄養調査も併せて実施した。 本研究は、これまでに報告された研究の中で最も長期間の追跡であり、尿中ナトリウム排泄量が将来のメタボリック症候群とどのように関連するかを検討するに十分な期間と考えられる。また降圧薬や糖尿病治療薬などを殆ど服用していない時代に尿中ナトリウム排泄量を測定しており、その信憑性は高く、極めて意義深い研究になると確信している。
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