介護老人保健施設は常勤医の配置が定められており、日常の介護と医療を同時に提供することで入所者の居宅復帰を目指す介護保険施設である。しかし、老健施設入所者に提供される医療サービスの大部分は、医療保険で請求することができず、施設側は介護報酬でそれらを賄う必要がある。療養病床が削減されつつある中、医療ニーズの高い要介護高齢者が老健施設に受け入れられるためには、合理的な報酬制度のもとで、介護と共に適正な医療が老健施設入所者に提供可能となる必要がある。本研究では、大阪府内の某老健施設入所者を対象に、入所中に提供された医療サービスの種類と頻度を把握することを目的とする。 今年度は昨年度に引き続き施設の入所記録から情報収集を継続し、130名の情報収集を終えた。このうち、処方薬(十数万件)の解析が可能であった入所者44名(ショートステイ利用者を除く)について、一日当たり薬剤費の分布を調べた。その結果、44名の一日あたりの総薬剤費(薬価)は円で、一日当たり換算では、平均529円(標準偏差707円、中央値304円、最小値12円、最大値3165円)と分布は大きく歪んでいた。一回の処方で薬剤費が高額だったものは、ステロイド薬(外用薬、吸入薬)が主であったが、内服薬でも抗菌薬や抗認知症薬が上位に含まれていた。ただし、一時的に用いられる抗菌薬と長期内服が主となる抗認知症薬の間では、累積薬剤費に大きな差が出ることは明らかである。介護老人保健施設における医療の質を保証するためにも、医療の提供が必要以上に抑制されることを回避する制度設計が必要と考える。
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