硫化水素のミトコンドリア呼吸阻害とは異なる、直接的な細胞への毒性作用の機序を解明するために、平成21年度はラット胎児心筋由来細胞(H9c2 cells)においてH_2Sを誘導する実験を実施した。H_2S発生供与体としてNaHSを使用し、NaHSを1~5mMの濃度範囲で投与し、経時的な形態変化を位相差顕微鏡下で観察したところ、3mMから細胞質の萎縮が観察され、5mMでは顕著なアポトーシス様細胞死が確認された。そこでWesternblotting法によりアポトーシス実行分子であるcaspase3の活性化を検討したところ、NaHSの濃度依存的に活性化していることが明らかとなった。また、H_2Sがミトコンドリアの呼吸鎖、複合体IVを阻害することが知られているため、ミトコンドリアに対する傷害の検討を実施した。NaHSを投与した細胞を回収、破砕し、遠心分離により細胞質画分とミトコンドリア画分に分画を行った後、Westernblottingを行ったところ、NaHS処理細胞では、ミトコンドリア傷害のマーカーの一つであるCytochrome Cのミトコンドリアから細胞質への顕著な遊離が観察された。 これら結果から、高濃度H_2S暴露により心筋細胞はミトコンドリア傷害を誘導され、Cytochrome Cの遊離、Caspase3の活性化を介したアポトーシスを引き起こすことが示唆された。 今後は、H_2Sによるミトコンドリア傷害の詳細な機序を検討するとともに、動物実験により、各組織間における傷害の差違に関し検討を行う予定である。
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