【目的】硫化水素は細胞の呼吸系に作用し、中毒症状を引き起こすと考えられており、高濃度に吸引すると短時間で意識を消失し、死に至る。しかしながら、硫化水素が細胞に与える影響の詳細は明らかにされておらず、有効な治療法も確立されていない。近年、硫化水素により膵臓と肺由来の細胞においてアポトーシスが誘導されることが報告されている。一方で、心筋細胞において毒性は報告されておらず、むしろ、低濃度では心筋細胞を保護すると考えられている。そこで本研究では、ラットの心筋由来の培養細胞(H9c2)を用い、高濃度硫化水素による心筋細胞への影響を検討した。 【方法】ラットの心筋由来の培養細胞(H9c2)に、緩衝液HBSS培地中で、5mM以上のNaHSと同濃度のHClを1:2の割合で反応させて硫化水素を発生させた。培養dishの周囲をシーリングし、形態の観察および細胞の回収を行った。その後、細胞内の蛋白質を抽出後、ウエスタンブロッティングを行い、細胞内の各種シグナル伝達物質の活性化について検討した。 【結果・考察】5mM以上の硫化水素を処理した細胞では、細胞の形態が変化(凝集)し、形態的にアポトーシスであった。アポトーシス関連蛋白質であるcaspase3の活性化、ミトコンドリアからのcytochrome Cの遊離が見られた。これらのことから、高濃度硫化水素により心筋細胞においてもミトコンドリアを介したアポトーシスが誘導されることが示された。今後は、動物において、硫化水素ガス吸入時に、直接的な毒作用を受けると考えられる肺の細胞に対して、検討を加えたい。
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