研究概要 |
覚醒剤投与後に錯乱状態にある者に身体拘束を行うと突然死することがあるが、死に至る機序は不明である。本研究では、覚醒剤および身体拘束の突然死との関連について、心筋発現遺伝子による分子病態学的検討を行った。 Methamphetamine(30mg/kg)をC57BL/6J雄マウス(9週齢、23~30g)に腹腔内投与し、その後1時間拘束した群(SM群)、覚醒剤投与後1時間放置した群(M群)、生理食塩水(10ml/kg)を腹腔内に投与後拘束した群(S群)、生食投与後1時間放置した群(C群)の4群に分け、心筋より抽出したmRNAについてmicroarray法および定量的RT-PCR法による遺伝子発現定量を行った。また、血清TNF-α,IL-1β,IL-6濃度を、ELISA法を用いて測定した。 Microarray法において、C群に対し覚醒剤投与および身体拘束群において3倍以上発現変動を示したものが22遺伝子、1/3以下の発現変動を示したものが14遺伝子あった。36遺伝子の内、機能が明らかな22遺伝子について定量的RT-PCRを行った。22遺伝子の内、Nfkbiz,Nr4a1,Dusp1,Rgs2,Rasd1,MafFの6遺伝子に有意差を認めた。その発現変動パターンからM群とSM群で変動を示したグループ(Nfkbiz,Nr4a1,Dusp1)、S,M群において増加傾向を示し、さらにSM群で増加発現を示したグループ(Rgs2,Rasd1,MafF)の2グループに分類できた。血清中IL-1βは覚醒剤投与で有意に上昇を示し、一方TNF-α,IL-6は覚醒剤投与および身体拘束で有意に上昇を示した。覚醒剤投与の影響としてNfkbiz、Nr4a1とDusp1のmRNA発現増加よりNFκB,MAPKの活性化とそれらを介した炎症反応惹起、また同時に炎症反応を抑制する経路の活性化が示唆された。一方、覚醒剤投与後の身体拘束の影響として、Rgs2 mRNAの発現増加よりRenin-angiotensin-aldosterone(RAA)系の活性化、Rasd1 mRNAの発現増加より心筋へのストレス、MafF mRNAの発現増加より炎症反応惹起が考えられた。 本研究では、覚醒剤投与に身体拘束が加わると相加・相乗的に心臓に影響する可能性が示された。つまり、覚醒剤投与が心筋障害を惹起し、さらに身体拘束が過度の血管収縮、RAA系亢進を介して循環動態に影響を与えることが考えられた。
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