研究概要 |
亜ヒ酸(三酸化ヒ素:ATO)は毒性元素として知られる一方、難治性・抵抗性急性前骨髄球性白血病(APL)患者に有効であることが報告され、抗がん剤として用いられている。現在欧米では、ATOは再発または難治性APLに対して第一選択薬となっており、日本においてもAPLの治療上必要不可欠な薬剤になることが期待されている。しかし、ATO投与を受けた患者のヒ素の代謝および生体毒性影響については不明である。そこでATO投与後のAPL患者におけるヒ素代謝を明らかにするため、尿中ヒ素化合物を分析し、毒性影響を調べる手がかりとして、酸化ストレスのマーカーとして知られる8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)濃度の分析を行った。 ヒ素化合物の組成割合は、投与期間を通じて平均でDMA(約45%),As(III)(約30%),MMA(約20%),As(V)(約5%)であった。メチルヒ素化合物のMMAとDMAは投与期間中増加傾向にあった。一方、無機ヒ素(As^vとAs^<III>)は、投与期間中、低濃度で一定の値を示し、これはヒ素のメチル化に関与する酵素の活性化によるのではないかと考えられた。8-OHdGは活性酸素種によるDNAダメージにより生じる。8-OHdG濃度は7-58.5ng/mg creatinineの範囲を示し、投与期間中増加傾向を示した。8-OHdG濃度はヒ素化合物の総和、MMAおよびDMA濃度との間にいずれも有意な正の相関関係が認められた。海産物などの食品には、MMAやDMAが含まれるが、ヒトの尿サンプルにおいてこれら由来のMMA、DMAも検出される可能性が考えられる。ヒ素化合物濃度と8-OHdG濃度を総合的に判断することが、食事経由の摂取とヒ素中毒とを区別する一助になることが、本研究の結果から示唆された。
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