法医解剖症例あるいは救命センターに搬送される急性中毒症例に対して、中毒起因物質の特定や定量結果が迅速に得られればより早期の診断が可能になる。日本中毒学会が選定した分析が臨床に役立つ中毒起因物質にはパラコートやグリホシネートなど、しばしば致死的中毒となる農薬が含まれる。特にパラコート中毒は予後を診断するためには定量が必須である。また、有機リンのフェニトロチオンも血中濃度と重症度が相関するため定量分析が有効である。これら農薬に対する定量は化合物毎の抽出と分析のため全ての化合物は一度に行えないのが現状である。また、採取試料が少量の場合には多くの検査に試料が使えないため起因物質の特定が困難になる。 本研究ではパラコート、グリホシネート、有機リンを同時に抽出する新規農薬用抽出カラムの開発と分析初心者でも容易に操作が行える分析方法の開発を行うことを目的としており、本年度はパラコート、ジクワット、有機リンの同時分析法の開発から着手した。 具体的には血清、尿中のパラコート、ジクワット、有機リンをホウ化水素ナトリウムで還元体としてガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)で分析を行う手法に重点を置いた。有機リンに関しては、中毒事例の多い化合物を対象にして検討を行ったところ、フェニトロチオンのみが上記還元剤に対して安定であった。還元された血清、尿中の化合物の抽出は、一般的に利用されている固相カラムで行ったが目詰まりが強く十分な抽出が行えなかった。そこで、モノリススピンカラムC18を用いたところ迅速な抽出が可能になり各化合物共、迅速に良好な分析結果が得られた。また、液体クロマトグラフ質量分析計を用いてパラコート、ジクワットの還元体とフェニトロチオンの分析を試みたが、各化合物の分析における最適なイオン化モードが異なるため、現時点の現有機器では十分な結果は得られなかった。
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