欧米では法医学分野の中に法医動物遺伝学研究が展開されている。そこで動物ゲノムの解析情報等を用いた人獣鑑別法あるいは動物の個体識別法など法医実務に応用可能な技術開発の基盤的研究を実施した結果、下記の研究成果を得た。1)平成22年度の動物ゲノムの収集:イヌ1196例、ネコ191例を収集し当初計画の目標であったイヌ約2000例、ネコ約400例のゲノムDNAパネルを構築した。2)イヌmtDNA HVI領域のハプロタイプの解析:合計91品種416例から56種類のハプロタイプを同定した。Himmelberger et.al.らに準じた分類法(417bp)ではPandaom match probabilityおよびGenetic diversityは、11.9%、0.883を示し、我が国においても当該ハプロタイプ解析は、DNA個体識別マーカーとして一定の有効性が示唆された。なお、各アレルは本研究室でNVLU001~NVLU056に再分類(約660bp)後、GenBank Accession No.AB622513~AB622568に登録した。3)Canine Genotypes Panel 1.1によるイヌ18種のSTRおよびAMEL遺伝子型解析:まず種特異性を検討するためイヌおよびイヌ以外の動物ゲノム8種類の遺伝子型判定を行った結果、イヌにおいてはすべての遺伝子座で型判定が可能であった。一方、イヌ以外の動物においても最高5遺伝子座でピークが認められ、種特異性は高いものの、イヌ以外のゲノムの混入は型判定に影響を及ぼす可能性も示唆された。次に、同一品種29例の各遺伝子型の決定を試みた。その結果、STR座位(18種類)の対立遺伝子数は3(AHTk253)~12(AHT137)、ヘテロ接合度は0.399(INU005)~0.862(AHT137)を示した。また、AMELを除く18遺伝子座の遺伝子型頻度より算出したプロファイル頻度は、1.4×10-14であった。これらの研究成果は、法科学分野におけるイヌDNA個体識別(身元特定)の基盤的なデータベースとして期待される。なお、STR解析においては3bp~4bpの繰り返し配列多型マーカーの開発が必要であると考えられた。
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