1.培養細胞を用いた各種生薬・活性成分による低酸素誘導因子関連因子の発現解析:これまで我々は、八味地黄丸が低酸素誘導因子(HIF)の関与による腎保護作用を有することをこれまで明らかにしてきた。今年度は、低酸素下においてラット近位尿細管上皮細胞を用い、八味地黄丸の活性成分と作用機序を検討した。八味地黄丸に含まれる8種類の生薬を近位尿細管上皮細胞に添加し、HIF-1αmRNAとHIF-1α蛋白量、その標的遺伝子である血管内皮成長因子(VEGF)と糖輸送担体-1(Glut-1)mRNAを測定した。その結果、低酸素下6時間の培養で、桂皮と牡丹皮にHIF-1αmRNAの増加を伴わないHIF-1α蛋白量、VEGFとGlut-1mRNAの増加を認めた。さらに、それらの主成分であるケイヒアルデヒドとペオノールにも同様の作用を認めた。作用機序として、HIF-1αmRNAの増加を認めなかったことから\HIF-1α蛋白の分解抑制作用が示唆された。 2.関節炎モデルにおける桂枝萩苓丸の効果:Lewisラットを正常コントロール群(C群)、アジュバント誘導関節炎群(AIA群)、アジュバント誘導関節炎-3%桂枝秩苓丸投与群(AIA-KBG群)各8匹の3群に分けて19日飼育した後、血液検体を用いて低酸素関連因子としてHIF-1α、VEGF、Glut-1の各mRNA、炎症性サイトカインとしてTNF-α、IL-6、凝固系の指標としてPAI-1、脂質過酸化の指標としてTBARSを測定した。その結果、低酸素関連因子の各mRNA、TNF-αとIL-6、PAI-1は各群間で差を認めなかったが、TBARSにおいてAIA-KBG群は、AIA群に比較して低下傾向(p<0.1)を示した。この結果から、本関節炎モデルにおける桂枝筏苓丸の内皮機能改善に抗酸化作用の影響が最も関与していると考えられた。
|