本研究では、医師の治療への考え方や行動、および、患者の効用値を測定することで患者の病態への考え(選好:preference)を明らかにし、治療判断(shared decision making)の有用性を検討することを目的に開始している。医師に対して、医師の糖尿病教育スタイルとセルフ・エブィカシー(SE)についてのアンケート内容と患者の血糖コントロール(Alc値)の解析を行った。その結果、SEと医師別の平均患者Alc値および患者満足度に有意な相関は認められなかったが、患者教育の仕方の質問項目では一般的な知識を医師主導で提供していることへの同意の程度が高いほどAlc値は低くなり、患者の生活や感情に配慮するスタイルでは患者満足度は高くなる傾向であった。医師と看護師の教育スタイルの比較では、医師は教育においては看護師より知識を意識し、看護師は生活や家族を意識する傾向が認められた。患者Alc値と医師のキャリアー等についての訪問アンケート結果を含めて検討したが、患者Alc値には医師の糖尿病診療に対する自信が関係し、その背景として患者の年齢や医師の専門性、通院中の糖尿病患者数が関与していると考えられた。患者満足度の上昇には、医師・患者間で相談しながら治療を決定していく態度が関係しており、一部医師の自信も関係すると考えられた。患者に対しては、糖尿病、心筋梗塞の外来通院患者でSF-36尺度と効用値を測定し、効用値とSF-36尺度との相関分析を行った。その結果、有する疾患により効用値に影響するSF-36の因子が異なる可能性が示唆された。患者の血糖コントロールには医師の自信が関与し、患者の満足度には医師の態度が影響している。糖尿病のコントロールには医療者主導の知識の提供と患者の生活や感情面への配慮のバランスを考慮した診療が望まれるが、患者との治療判断においては、患者の合併症の有無などにより効用値に影響する因子は異なることなども考慮しなければならない。
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