本研究の目的は腸上皮細胞から分泌される分泌膜小胞が増強性および抑制性の免疫調節作用を有することに基づき、補中益気湯の経口投与によるマウス血清由来の膜小胞の含有成分の変化を明らかにすることを目的とする。平成23年度は抗がん剤のメソトレキセートを投与したマウス腸上皮組織での炎症に対し、補中益気湯が抗炎症作用を示すことを明らかにするとともに、本作用の発現に関与する生体分子の解析を行った。その結果、補中益気湯はToll-like receptorから伝達される炎症性シグナル分子のカスケードにおいて、抑制的な作用を有するIRAK-M分子の発現に対する発現増強作用を有することを明らかにした。全研究期間を通して明らかにしてきた結果を総括した結果、補中益気湯は小腸上皮細胞において、パターン認識分子のNOD2およびTLR9の発現を増強させるとともに、TLR4などのパターン認識分子から誘導される炎症性シグナルカスケードの制御を担うIRAK-Mをin vitroおよびin vivoでの実験系では発現増強することが強く示唆された。また、in vitroのみでの検討結果としては、小腸上皮細胞株(IEC-6)において接着分子のVCAM-1および補助分子のFasの発現を増強することが推定された。これらの候補タンパク分子の液膜小胞での発現および補中益気湯投与による変化の可能性について、加齢マウスに1週間、水もしくは補中益気湯を投与したBALB/cマウスより血清を分離後、沈殿法により液膜小胞画分を調製した。水投与マウス血清由来の液膜小胞中にはwestern blottingでの解析によりNOD2およびTLR9が含まれていることが示され、NOD2の存在については液膜小胞での初めての報告となると考えられる。一方、補中益気湯投与および非投与群由来の液膜小胞での比較から、actinを内部標準として比較した場合、NOD2およびTLR9いずれにおいても補中益気湯の投与による大きな含量変化は認められなかった。
|