研究概要 |
本研究では、認知症患者の筋・運動系機能の低下の特性を明らかにし、脳画像解析等を用いて認知症の疾患別に転倒リスクの解析を行った。杏林大学もの忘れセンター受診患者のうち、転倒の記録がとれ、研究の同意が得られた約400名を対象とした。評価項目は認知機能、意欲、うつ、ADL等の総合的機能評価、Up & Goテスト(TUG)、バランステストその他の身体機能検査、転倒スコア、脊椎後弯角測定、足関節可動域、脳血流シンチグラム、血液生化学検査等であり、以下の成果を得た。(1)認知症の病型別解析で、レヴィ小体病と脳血管性認知症の転倒が有意に高頻度であった。(2)認知症高齢者の意欲が低下する機序として、前頭側頭葉のほか視床、大脳辺縁系や白質の血流障害が関連する可能性が示唆された。(3)足関節可動域の減少ならびに、脊椎後弯角の増大が転倒率の増大と関連していた。(4)認知症外来患者98名のうち1年間で33名(34%)が転倒した。転倒者と非転倒者で転倒歴、転倒スコア、老年症候群保有数、開眼片足立ち時間、TUG、Functional reach(FR)、重心動揺距離、血清P, Alb濃度に違いが認められた。(5) Ca拮抗薬服薬患者はレニン・アンジオテンシン阻害薬服薬患者に比べて大脳白質病変の程度が強く、大脳白質病変の程度は大動脈のスティッフネスが亢進していた。(6)自覚的不安感を検出するハンカチテストは転倒予測に有用である可能性が示され、陽性患者は、ハンカチの把持により両側後頭葉の血流増加が見られることが示された。(7)血中ビタミンD濃度は握力、TUG、FRと有意な相関を示した。(8)マウスの両側頸動脈外周を微小コイルを被覆することにより脳梁部の虚血障害を起こすことができ、モデルマウスの作製に成功した。
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