化学療法(タキサン系薬剤)では末梢神経障害(痛みを伴うしびれ)のため、患者のQOL低下や投薬中止を余儀なくされるが、有効な治療方法はない。我々は、その末梢神経障害に対して鍼治療が安全で有効な治療方法であることを臨床試験及び動物実験により検討することを目的とした。 臨床試験:化学療法により末梢神経障害が発症し、本臨床試験に同意の得られた患者を対象とした。鍼治療は、下肢(陽陵泉-懸鐘、陰陵泉-三陰交:2Hz・10分間の鍼通電刺激、太衝:置鍼)を週1回で6週間行なった。結果、VASで評価される自覚症状は、53.1±4.3mm(mean±SE)が37.8.1±5.1mmへと有意に軽減した。タッチテストで評価される客観的指標は、異常値を示した足背14名中7名、足裏11名中9名が改善した。また、鍼治療の有効条件の検討では、「軽減因子(温めると症状悪化vs温めると症状軽減)」では、温めると軽減する群では症状が有意に改善した。鍼治療による有害事象は、中等度以上は認められなかった。軽度なものは、一過性(主に初回治療時)の軽度倦怠感、軽度違和感、軽度症状悪化であった。 動物実験:雄性SD系ラット(300-350g)をコントロール群(n=7)、鍼通電刺激群(n=6)の2群に分けた。神経障害モデルは、パクリタキセル(1mg/Kg、隔日4日)を投与することで作成した。鍼通電刺激は右下腿(足三里-懸鍾相当部位)へ2Hz・3mA・30分間とし、初回投与後10日より週2回行った。結果、Von Frey hair testで評価される機械的閾値は、閾値が正常値に戻る日数では両群間に有意な差は認められなかった。しかし、皮膚表面温度は、鍼通電刺激群が改善する傾向を示した。
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