加齢腎の腎機能障害の原因の一つに組織の低酸素に対する血管新生能の低下が考えられる。腎臓尿細管では低酸素状態が持続した場合、Vascular endothelial growth factor(VEGF)産生が増加し、間質毛細血管数を増加させ血流を増加させる働きがある。しかし、加齢腎ではこの低酸素に対するVEGF発現が低下し、間質毛細血管数低下を引き起こし、腎間質障害の一因となっていると考えられる。しかし、加齢腎のVEGF産生低下の機序は十分には解明されていない。尿細管細胞はmitochondriaの豊富な細胞であるが、加齢に伴い、酸化ストレスの蓄積などによりmitochondria機能は低下する。Mitochondria機能の一つに低酸素を感知する酸素センサーの機能がある。そこで、加齢腎ではmitochondria機能異常により低酸素応答性が低下し、VEGF産生が低下する、と仮説を立て、加齢による腎障害進展過程における間質血管新生障害と尿細管mitochondria機能異常の関連を検討した。老齢ラット(23-25ヶ月齢)と若年ラット(3-4ヶ月齢)の腎機能・尿細管間質障害、VEGF発現、尿細管mitochondria機能(COX活性染色)を比較検討した。同時にピモニダゾールで腎虚血と抗RECA-1抗体により傍尿細管毛細血管数について検討した。また、正常近位尿細管上皮細胞とρ0(Mit DNA欠失)細胞を用い、低酸素(2%0_2)に対するVEGFの発現を比較検討した。老齢ラットは若年ラットに比較し腎機能・尿細管間質障害が進展し皮質部に広範に組織虚血を認めたが、VEGF発現は減少していた。またCOX活性染色も染色性が低下し、加齢腎ではmitochondria機能異常の存在が示唆された。ρ0細胞では低酸素に対するVEGF発現応答性が低下していた。さらにmitochondria呼吸鎖阻害剤を用いた実験でも同様に低酸素に対するVEGF発現応答性が低下していた。Mitochondriaの酸化的障害・機能異常は低酸素に対する応答性を低下させ、VEGF発現の低下、血管新生能の障害を惹起し、結果として虚血進行による尿細管間質障害を引き起こすことが示唆された。
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