研究概要 |
本研究の目的は、脳の神経ネットワークの機能を電気的活動として安全かつ鋭敏に捉えることができる電気生理学的手法を用いて、認知症の治療モニタリングに役立てていくための方法を確立することである。 本年度は、昨年度までに記録した臨床的に軽症のアルツハイマー病(AD)と診断された患者24名、及び高齢健康ボランティア(ctrl)17名の安静閉眼時の自発脳磁場活動に対して、脳内ネットワークの機能変化をより鋭敏に捉える目的で、1)左右半球間のfunctional connectivityを評価するphase-lag index(Stam,2009)の解析、2)Default network活動との関連が示唆されているα波のパワー変調を評価するため、α帯域の波形の輪郭を抽出し、一定閾値以上のepoch数やdurationを算出するtemporal variability解析(Montez et al,2009)や、3)抽出輪郭を更に周波数解析にかけるα-modulation解析を新たに行った。これらの解析結果に、これまで探索してきた電気生理学的バイオマーカー候補も加えて、ROC解析を用いてADとctrl群間の分離能を検討した。また、ロジスティック回帰分析も行い、各因子の組み合わせた場合の脳磁図単独の分離能も検討した。その結果、AD群でctrl群間に対して有意(p<0.05)な変化を示した脳磁図成分は、θ波powerの増大、α波の主要周波数の低下、左右半球間のCoherenceの低下及びphase-lag indexの低下、temporal variabilityの変化、及びα-modulationの低下等であり、それぞれ感度72-92%,正診率68-76%程度で両群を分離した。ロジスティック回帰分析では、これらの因子を組み合わせることにより、最大で感度92%,正診率88%の分離能を示した。以上より、自発脳磁図はADの病理によって生じる脳のネットワークの機能低下を反映するマーカーとして有用であると同時に、ネットワーク機能の変化を捉えるマーカーとして治療モニタリングにも利用できる可能性が示唆された。
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