ヒトの食道・胃接合部では、唾液中に含まれる亜硝酸塩が強酸性の胃液と瞬時に反応することで、限局性に高濃度の一酸化窒素(NO)が生成される。この食道・胃接合部で限局的に発生するNOによる組織障害を検討するために、我々はこれまで種々の動物実験を行ってきた。それらの結果から、食道・胃接合部内腔で発生したNOは周囲の組織に拡散し、上皮のバリア機構を破たんさせることを明らかにした。また、術後数週間生存可能なラットの逆流性食道炎モデルを用いて、外因性のNOは、実際に逆流性食道炎による組織障害を増悪させることを明らかにしてきた。今回の検討では、より長期間の生存が可能であるバレット食道/腺癌モデル(ラット慢性炎症モデル)を用い、食道内腔で発生するNOとバレット食道発生に及ぼす影響についての検討を行った。その結果、術後4、8週の時点で、外因性のNO投与によってラットのバレット食道発現率、及び、バレット食道の面積が有意に促進されることを明らかとなった。バレット食道は、食道腺癌の前駆状態と考えられており、今回の結果は、外因性のNOが、食道腺癌の発生にも関与していることを示唆しており、興味深いものである。食道腺癌は、現在、欧米を中心に急速に増加しており、日本でも食生活の欧米化などに伴い、今後、増加することが危惧される。食道腺癌の原因は現在まで不明であり、今後、外因生NOによる食道腺癌に対する影響に関して更なる検討を行う予定である。
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