我々は、これまでの検討で、ラットのバレット食道モデルに外因性の一酸化窒素(NO)を投与することで、バレット食道の発生を促進させることを明らかにした(In J Cancer 2010)。その機序として、外因性NO投与によって、食道の炎症が増強され、その治癒過程で二次的にバレット食道が形成されるものの他に、NOが食道上皮細胞に直接作用して、正常食道の扁平上皮からバレット食道の円柱上皮へ形質転換がおきる可能性がある。この機序を明らかにすることは、食道腺癌の前癌状態であるバレット食道の成因を解明するうえで重要と考えられる。そこで、外因性NOによるバレット食道促進効果の分子生物学的機序を明らかのするために、マイクロアレイを用いて網羅的な遺伝子解析を行うことにした。正常コントロール群、バレット食道群、バレット食道に外因性NOを暴露した群の3群を10匹づつ作成し、各々のラットの食道組織からRNAを抽出し、それらを各群でプールしたものを用意した。現在、外注で分析中である。この結果を踏まえて、さらに詳しい検討を行うことにしている。 また、我々の最近の検討では、バレット食道の前駆状態である逆流性食道炎に対する外因性NOによる影響は、ラット雌雄間で大きく異なり、雌は雄に比べ、食道の障害が有意に低いことが明らかとなり、雌では何らかの防御機構が働いていることが考えられた。さらに、その後の検討で、女性ホルモンであるエストロゲンが、食道の防除機構として重要であることが確認された。今後、この機序をさらに明らかにするとともに、バレット食道モデルにおける雌雄間での差異についても検討する予定である。
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