我々のこれまでの実験で、外因性に投与された一酸化窒素(NO)は、食道腺癌の前癌状態であるパレット食道、さらに、その前駆状態であるびらん性逆流性食道炎を著明に抑制することが明らかにされている。このうち、ラットでのパレット食道促進効果に関しては、その分子生物学的機序を明らかにするために、マイクロアレイを用いて網羅的な遺伝子解析を行い、終了した。 次に、外因性NOのラット逆流性食道炎に対する作用には大きな雌雄差があり、雄で組織傷害が著明にみられることを見出した。これは、ヒトで食道腺癌、パレット食道、びらん性逆流性食道炎といった胃・食道逆流症(GERD)関連疾患がいずれも著明に男性優位である疫学報告と一致していることから、ヒト食道腺癌の病態発生を解明するために、ラット雌雄差が生じる機序を明らかにすることが重要であると考え、この実験を精力的に進めてきた。 その結果、卵巣を摘出した雌ラットなどを用いた実験によって、外因性NOの食道粘膜傷害増悪作用に対してエストロゲンが抑制的に働いていることが明らかとなった。また、エストロゲンは、食道組織中の肥満細胞の作用、そして炎症性サイトカインの作用を抑制することで食道での炎症の発現を抑制していることが明らかとなった。そして、炎症性サイトカインのうち、tumor Recrosis factorα(TNF-α)が食道粘膜傷害の程度と最もよく相関していた。これらの実験結果は、GERD関連疾患モデル動物を用いて食道粘膜傷害の雌雄差を示した報告は初めてであり、今回認められたエストロゲンの抗炎症作用が、ヒトにおけるGERD関連疾患の性差にも深く関与していると考えられた。これらの実験結果はGut誌にacceptされ、印刷中である。
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