腸上皮化生粘膜は分化型胃癌の前癌病変と考えられている。転写因子Cdx2はヒトの腸上皮化生粘膜に発現しており、このCdx2を胃粘膜に特異的に発現させたトランスジェニックマウスの胃粘膜は、腸上皮化生粘膜によって完全に置き換えられた。しかし、元来Cdx2は正常の小腸の絨毛に発現しており、小腸粘膜上皮の分化に関与している。さらに、大腸癌においてもCdx2の発現の低下が見られ、Cdx2は癌抑制遺伝子とも考えられている。このCdx2を胃粘膜に特異的に発現させた腸上皮化生粘膜から、何故分化型胃癌が発生したのかは大きな疑問である。一方、転写因子Cdx1は正常では小腸の陰窩に発現しており、増殖と関係することが示唆されている。現在まで、食道において腸上皮化生を有するBarrett上皮におけるCdx2の発現誘導は逆流する胆汁酸による食道上皮細胞におけるNF-κBを介するCdx2の発現誘導であると報告されているが、腸上皮化生粘膜において発現しているCdx1の発現のメカニズムについては明らかにされていない。このCdx1の発現誘導のメカニズムは全く報告がなく、腸上皮化生粘膜の前癌病変としての状態を明らかにすることができると考えられる。qRT-PCRによりCdx2トランスジェニックマウスの腸上皮化生粘膜にはCdx1が発現していることを確認した。しかし、内因性のCdx2の発現は誘導されていなかった。さらに、免疫組織染色によりCdx1の腸上皮化生粘膜での発現を確認した。Cdx1の発現誘導の原因としてCdx1のpromoter領域のメチル化の関与をBisulphite sequencingにより検討したが、promoter領域はメチル化されていなかった。そこでChIP(Chromatin immunoprecipitation)assayによりCdx2のCdx1のpromoter領域へのin vivoでの結合を検討したところCdx2がCdx1のTATA boxに結合することを明らかにした。
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