研究概要 |
聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会(ヒトゲノム・遺伝子解析研究部会)において本研究内容の承認を得た後、解析とした。 まず、6症例のペアサンプル(癌部、非癌部)をテストセットとして用い、gDNAをメチル化シトシン感受性制限酵素で処理した後、Cy3,Cy5でラベリングしH/H-MCA Microarray法にて網羅的DNAメチル化解析を行った。癌、非癌部でメチル化に差のある候補遺伝子群のなかでCYP26C1を選択、定量性に優れるBisulfite-Pyrosequence法にて6ペアサンプルにおける結果の再現性を解析した。結果、良好な結果を得ることができたため、検証セットである34症例(124サンプル)を用い、検証解析を行うこととした。興味深いことに数症例では非癌部においてもCYP26C1のDNA高メチル化を認めていることが判明し、さらに癌部、非癌部の両部位において放射線化学療法後に有意なCYP26C1メチル化レベルの低下を認めることが判明した(癌部:p<0.01(45.1+18.3 to 31.6+14.9)、非癌部:p<0.0001(43.8+10.3 to 50.5+13.8)。 食道扁平上皮がんは多中心性発がんの特徴を持つことが既に知られており、癌部は内視鏡検査時に行われるルゴール染色で不染帯として認識される。しかしながら非癌部もルゴールに不染となり、病理組織学的にも低異型度の変化を認めることはしばしば臨床の場で経験される。今後CYP26C1のメチル化が機能的に何を意味するのかを解析する必要があるが、既に非癌部がもつ悪性化へのポテンシャルとCYP26C1メチル化の関与が推測され、食道がん患者の治療方針を決定する上で、癌部のみの局所治療(外科治療やESD)もしくは全身放射線化学療法(CRT)の選択基準のひとつにCYP26C1のDNAメチル化が追加される可能性が推測される。
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