本研究では平成22年度までに、正常な大腸上皮細胞をマウスより単離し、3次元的に包埋し、複数の増殖因子を含む無血清培地で維持することにより、長期にわたりこれら細胞を体外培養する技術を確立した。さらにこの培養技術を用いると、Lgr5分子発現細胞として識別できる大腸上皮幹細胞が数的に増えることを確認した。さらに培養細胞をドナーとした移植実験により、本法で培養した正常大腸上皮細胞が、再び個体に戻した際にも幹細胞として機能し、大腸上皮組織を再構築しうることが明らかとなった。 本年度においてはこれをさらに発展させ、移植した培養細胞がいかに傷害上皮を修復するかの詳細を検討した。具体的には、薬剤投与により大腸上皮傷害を惹起したマウスをレシピエントとし、EGFP陽性培養大腸上皮をドナー細胞として移植をおこない、移植後短期におけるドナー細胞の分布を検討した。その結果、体外で培養維持した上皮細胞が移植数日後には単層細胞としてレシピエント大腸に確認できること、ドナー細胞はレシピエントの大腸傷害部位、すなわち上皮欠損部を被覆するように分布することが明らかとなった。移植後4週経過すると、ドナー細胞はレシピエント内に正常上皮組織を再構築すること、さらにこの培養細胞による移植が、たった1個の大腸上皮幹細胞から体外で増やした培養ドナー細胞によっても再現できることを明らかとした。 本成果は、培養幹細胞を用いた消化管上皮再生が技術的に可能であることを明らかにした世界で初めてのものであり、世界的にも高い評価をうけることとなった(Nature Medicine 2012)。本研究によって、大腸上皮幹細胞のイメージング技術を提示することができたのみならず、微小な組織片から得た大腸上皮幹細胞による大腸再生治療の技術基盤を示す大きな成果があげられたと考える。
|