研究課題
本研究では、われわれが新規に見出したWnt/Notchシグナル間クロストーク機構が腸管上皮において担う役割を詳細に解析することを目的とした。このため平成22年度においては、主としてin vitroの両者における実験システムを構築した。まず、これまでに困難とされてきた正常腸管上皮幹細胞の培養技術を確立し、その増殖・分化過程を解析しうるシステムを構築することができた。すなわち、さまざまな条件検討の結果、我々が用いる上皮細胞単離技術、3次元培養基質条件、蛋白因子添加条件の組み合わせにより、正常マウス大腸上皮細胞がきわめて純度の高いまま、1年を超えて、しかも無血清培地中で継代操作を経て維持可能となった。本法を用いると、大腸上皮細胞が単層に配列球状嚢状構造を形成し、その増大を伴いつつ細胞増殖を繰り返す。これら培養細胞には、すべての大腸上皮分化細胞が含まれるのみならず、Lgr5陽性の大腸上皮幹細胞が維持されることが明らかとなった。重要なことに、本培養においては培地中に添加する因子として、WntリガンドとWntアンタゴニストが不可欠であり、正常大腸上皮の増殖にWntシグナルが必須であることが確認された。また、Notchシグナル阻害剤としてはたらくガンマセクレターゼ阻害剤を用いると、培養大腸上皮細胞の分泌型形質への分化が誘導可能であった。このことより、本培養方法が生体内におけるWntとNotchシグナルの機能を保ったまま維持できていることが強く示唆された。今後は、これら成果をさらに発展させることによって、Wnt/Notchシグナルの詳細な分子機構が正常上皮細胞の培養系を利用して初めて明らかになることが期待されると考える。
すべて 2011
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Inflamm Bowel Dis.
巻: In press
J Gastroenterol.
巻: 46 ページ: 191-202