研究概要 |
これまでに申請者は、作成した腸管上皮細胞特異的FcRn過剰発現マウス、ならびに、FcRn欠損マウスを用いて感染実験を行い、FcRnがIgGを分泌,また細菌抗原・IgG複合体を輸送してCD4陽性T細胞を活性化することで、Citrobacter rodentium感染症を制御していることを明らかにした。FcRnにより分泌されたIgGが粘膜内外で細菌性抗原と免疫複合体を形成し、粘膜下に存在するマクロファージや抗原提示細胞の発現するFcγRを介して下流の免疫応答を制御すると考えられる。Fcγ受容体には、刺激性シグナルをもったFcγRI、FcγRIIIA、ならびに、抑制性シグナルを持つFcγRIIBがあり、これらの受容体が抗原・IgG複合体を取り込む際に,抗原提示細胞を刺激または抑制し,下流の免疫応答が制御されると考えられる。 そこで本研究では、粘膜下に存在する抗原提示細胞が発現するFcγRやFcRnが抗原・IgG複合体の取り込みから抗原提示機能にどのように関わっているのかを検討した。その結果、抗原・IgG複合体は樹上細胞表面でFcγRを介して取り込まれ、エンドソームで離散、FcRnと結合すること、また、FcRnを欠損させることにより抗原提示能が低下する可能性を見出すことができた。さらに、FcRnによるIgGの双方向性輸送におけるクラスリンアダプタータンパクAP-1Bの役割についても評価した。AP-1B欠損マウスにIgG投与し、その輸送について検討したが、その野生型マウスとの違いを見出すことができなかった。この結果は、AP-1BはIgG輸送に関わっていない可能性を示唆している。これらの研究により、病原微生物に対する宿主の応答機構や粘膜免疫応答に対して、FcRnによるIgG、抗原・IgG複合体輸送、粘膜下の抗原提示細胞に発現するFcγRが大きく関わっている可能性を示すことができたことから、今後、実際の感染症や粘膜免疫応答におけるIgGの役割をより詳細に検討していく必要があると考える。
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