研究概要 |
これまでの本研究にて、骨髄由来MSCが大腸癌間質内に遊走し、癌関連線維芽細胞(Carcinoma Associated Fibroblast : CAF)に分化したのちに大腸癌の増殖、転移を促進することを明らかにした(Shinagawa K, et al.Int J Cancer, 2010)。さらに、分子標的薬であるPDGFRチロシンキナーゼ阻害剤によりMSCの腫瘍間質への遊走や生存が阻害され、MSCに関連する間質反応を抑えることで腫瘍の増殖、転移を制御できることを報告した(第102回米国癌学会2011)。 本年度は、癌細胞とMSC相互作用に関する解析を行った。MSCが癌細胞へどのような影響を及ぼすのかをin vitro共培養システムや培養上清を用いて検証したところ、癌細胞をMSCと共培養することで癌細胞の遊走能・浸潤能が有意に増加した。また癌細胞にMSCの培養上清を曝露することでアポトーシスが抑制された。さらに興味深いことに、MSCの培養上清を癌細胞に曝露するのみ、ないし癌細胞とMSCを非接触性に共培養するのみでは細胞増殖は促進されなかったにもかかわらず、接触性に共培養した際には癌細胞増殖が促進された。 次に、MSCが癌細胞の遺伝子発現に与える影響を検証するためにマイクロアレイ法による網羅的な解析を行った。癌細胞をMSCと共培養することでメタロチオネイン(metallothionein : MT)遺伝子群の発現が特に大きく上昇することを見出した。MTは抗アポトーシス作用、血管新生、細胞増殖促進などに関与し、癌の進展に寄与することが知られており、その機能解析によって癌-MSC相互作用における分子生物学的機序を解明し、MSCにより形成される腫瘍間質を標的とした新しい治療の開発をすすめようと考えている。
|