研究概要 |
昨年度は,腸上皮再生における骨髄間葉系幹細胞馴化培地(MSC conditioned medium;以下MSC-CM)の効果およびその機序を明らかにし,MSC-CMに含まれるgut trophic factorを同定することを目的とし,施行された.その結果,1)MSC-CMは、培養上皮細胞(IEC-6)におけるAktシグナルを活性化して直接腸上皮の生存・増殖に寄与することが明らかになった.2)またラットDSS腸炎に対するMSC-CM治療では,腸炎の回復が促進され,とくに低酸素条件で馴化したMSC-CM(hypoCM)では,更に腸炎回復効果が増強した.その有効性の機序として,上皮再生の促進に加え,hypoCMに豊富に含有されたVEGF等の生理活性物質による血管新生や抗炎症を介する総合的な作用による治療効果が考えられた.これらの結果は,最適化されたMSC-CMそのものが,IBDに対する創薬の可能性を秘めている点,重要である. 本年度は,MSC-CMの組成をさらにLC-MS/MS解析し,正酸素条件で馴化したMSC-CM(norCM)に比較してhypoCMで発現が亢進するタンパク400種および発現が低下するタンパク600種を同定した.一方,炎症発癌(AOM/DSSモデル)に対し,MSCは,AOMによる発癌のイニシエーションを抑制した.MSCによるchemopreventionの機序には,O^6メチルグアニン付加体を除去し,DNA傷害を減じて,腫瘍のイニシエーション自体を防ぐ予防的機構,あるいは,acute apoptotic response to genotoxic carcinogenによるアポトーシスを回避した細胞を,G1 arrestあるいはアポトーシスに陥れる機序である. 以上の成果は,今後MSC治療を臨床応用する際,MSC-CMが細胞療法の代替療法として期待された.また,発癌に対するMSCの基礎データを提供し,発癌リスクを有する炎症性腸疾患(IBD)患者に対する新規MSC治療の臨床応用に向けて,重要である.
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