研究概要 |
【目的】発癌は、様々な理由でDNA二重鎖が傷害を受けることが大きな理由のひどつとされている。通常、DNAに傷害が起こると、DNA早期応答因子であるγ-H2AXやその関連因子が活性化して、損傷された遺伝子を修復して日癌を防御している。しかしながら肝発癌の早期では、DNA修復因子に関する制御メカニズムに何らかの異常が生じていることが示唆されている。本研究では、動物肝癌モデルやヒト肝癌組織におけるγ-H2AXおよび関連因子の解析を通して、精度の高い肝癌予測マーカーの開発を行うことを目的とする。 【方法】(1)自然に肝癌を発生するHBV X遺伝子トランスジェニックマウスの肝組織、(2)ヒト肝がん組織および周囲肝組織を採取し、DNA修復因子の発現量・リン酸化レベルをWestern blot解析した。その結果、組織内の活性酸素がDNA修復因子の活性化/不活化に大きく関与することが明らかになったため、当該年度においては、活性酸素によるDNA修復因子の制御機構を解析する目的で、抗酸化因子の誘導剤であるHeminやcobalt-protoporphyrin (CoPP)を培養肝癌細胞株やHBV Xトランスジェニックマウスに投与し、DNA修復因子(ATM/ATAR, 53BP, Chk1/2, ERCC1, TFIIH, XPG等)を解析した。 【成績】HBV X遺伝子トランスジェニックマウスにおいては、発癌の数ヶ月前からH2AXが強くリン酸化して活性化していることをWestern blot・免疫染織で見いだした。培養細胞株の解析結果から、この理由が発癌前に組織内に蓄積した活性酸素のためであることが明らかになった。興味深いことに、抗酸化因子であるheminやCoPPを投与されたマウス個体は、DNAの損傷レベルが著減しており、H2AXを初めとしたDNA修復因子の異常な活性化が軽減された。 【研究成果の意義】本研究結果により、蓄積した活性酸素が肝発癌に深く関与していることが明らかになった。今後は、臨床応用可能な活性酸素の制御法を検討する予定である。
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