本研究は、レチノイド核内受容体RXRαを分子標的とする合成レチノイド(非環式レチノイド)と、作用機序(標的分子)の異なる薬剤を併用することで、相乗的な肝発癌の抑制効果や肝癌細胞の増殖抑制効果を誘導し、臨床的に有益な発癌予防法(薬)の開発を目指すことを目標とする。我々は今年度の研究で、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるバルプロ酸と非環式レチノイドを併用することで、肝癌細胞に相乗的にアポトーシスが誘導され、細胞増殖が抑制されることを明らかにした。この相乗効果のメカニズムとして、Ras/MAPK/ERKおよびPI3K/Akt signaling pathwayと、RXRαのリン酸化の抑制が重要であったことより、今回の研究結果は、RXRαの異常リン酸化を解除する非環式レチノイドをkey compoundとした、併用肝発癌化学予防の有効性を示唆するものと考えられた。また、非環式レチノイドがRasを標的とすることで、腫瘍細胞の増殖を抑制した可能性に注目し、Rasが高活性化状態にありRXRαがリン酸化されている膵癌細胞株を用いて実験を行ったところ、非環式レチノイドと膵癌の化学療法に用いられるgemcitabineの併用処理が、相乗的にRasの活性を阻害し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導して細胞増殖を抑制することが、in vitroおよびSCID miceを用いた実験系で明らかになった。Rasの活性は様々な発癌に関与していることより、今回の研究結果は、非環式レチノイドがRasやリン酸化RXRαを標的とすることで、肝癌のみならず、他の癌腫に対する発癌予防薬(治療薬)として有用である可能性を示唆するものであり、今後、発癌予防研究を進めていく上で重要かつ有意義な研究結果と考えられた。
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