研究概要 |
我々はこれまでの2D-μHPLC-MALDI-TOF-MS法により、新規肝細胞癌バイオマーカーとしてinter-α-trypsin inhibitor heavy chain 4(ITIH4)のペプチド断片を同定した。また、この蛋白の断片は糖鎖修飾の差異により10のvariantに分離され、この中でもvariant9,10は発現量は低いものの肝細胞癌特異的に発現しており、特に早期の肝細胞癌の検出に有用であることを確認した。また、ITIH4は分子量が120kDaの蛋白であるが、人体中ではplasma kallikreinにより85kDaと35kDaの蛋白に分解されており、今回同定したペプチドは35kD蛋白のN端に存在していた。この35kDa蛋白に対する抗体を作成し、抗体との結合ビーズを作成、これを検体(血清)と反応させ、抗原-ビーズ結合体をプレート上に固相後MALD-TOF-MSにより目的ペプチド断片を検出するハイスループットアッセイであるimmuno MSシステムを構築した。この方法により多くの検体を短時間で測定可能となった。このシステムを用いて健常人、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌患者の血清サンプルそれぞれ20例を測定した結果、健常人と慢性肝炎は感度85%、特異度100%(ROC=0.89)で分離可能であり、肝硬変と肝細胞癌は感度84%、特異度62%(ROC=0.70)で分離可能であり、そのバイオマーカーとしての有用性が示唆された。また、これまでのマウスを使用した研究ではITIH4は肝発癌に直接関連していることが示唆されている。今後の課題として、バイオマーカーとしての有用性を確立するほかに、120kDa、85kDa、35kDa蛋白の発現ベクターを構築し、糖鎖付加と癌化の関連性を検討したいと考えている。
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