研究概要 |
我々はこれまでの2D-μHPLC-MALDI-TOF-MS法により、新規肝細胞癌バイオマーカーとしてinter-α-trypsin inhibitor heavy chain 4 (ITIH4)のペプチド断片を同定した。ITIH4は血清カリクレインにより35kDと85kDの蛋白に分解されるが、今回同定したペプチドは35kD蛋白のN端に存在することが判明した。また、この蛋白の断片は糖鎖修飾の差異により10のvariantに分離され、この中でもvariant9,10は発現量は低いものの肝細胞癌特異的に発現しており、特に早期の肝細胞癌の検出に有用であることを確認した。このvariant9,10の組み合わせによりstage1,2の肝癌と慢性肝炎を感度85.7%、特異度95.5%(ROC=0.903)で分離可能であり、肝硬変とstage1,2の肝癌は感度71.4%、特異度80.3%(ROC=0.77)で分離可能であった。また、この35kDa蛋白に対する抗体を作成し、抗体との結合ビーズを作成、これを検体(血清)と反応させ、抗原-ビーズ結合体をプレート上に固相後MALD-TOF-MSにより目的ペプチド断片を検出するハイスループットアッセイであるimmuno MSシステムを構築し、多検体がより短時間で測定可能となった。このシステムを用いてこれまでに健常人と慢性肝炎は感度85%、特異度100%(ROC=0.89)で分離可能であり、肝硬変と肝細胞癌は感度84%、特異度62%(ROC=0.70)で分離可能であった。また、このimmuno MSシステムを使用Cut off値を調節することにより、ALT正常の慢性肝炎でも感度92%、特異度73%(ROC=0.90)で健常人より分離可能であった。そのバイオマーカーとしての有用性が確認された。さらに、この35kD蛋白は非アルコール性脂肪性肝疾患の血中でも組織学的に初期の段階から健常人に比して有意に上昇が認められ、肝細胞癌のみならず肝疾患全般での有用なマーカーとなりえることが示唆された。
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