研究概要 |
本研究では、腫瘍ダイナミクスを鋭敏に反映する血清マーカーに、癌特異的な遺伝子メチル化の変化を応用することを目的とした。血清中の肝癌由来DNAの検出に優れたメチル化マーカーを選択するため、133例の肝癌例を対象とし、メチル化異常が知られている26種の遺伝子座位の癌、及び非癌部組織のメチル化レベルをCOBRA法にて定量し、ROC解析にて癌部と非癌部の区別に有用な遺伝子座位と求めた。その結果、AUCが0.8以上を示す遺伝子はAPC,GSTP1であった。次に、APC遺伝子のメチル化DNAと非メチル化DNAの割合(Me/NMe DNA比)を、血清中の遊離DNAから高感度に検出、判定するため、APCプロモーターのCpG islandに、Bisulfite処理後のDNAをメチル化の状態に関わらず増幅するプライマーを設定し、さらにその内部にメチル化、非メチル化DNAをそれぞれ特異的に増幅、検出するTagManプライマー,プローブを設定することにより、1stepで高感度にMe/NMe DNA比の定量的解析が可能となった。肝癌組織DNAを希釈し、このアッセイ系でMe/NMe DNA比を求めたところ、COBRA法の結果と一致した。次に、肝癌症例23例および正常者8例の血清100μ1よりDNAを抽出、Bisulfite処理し、上記の方法でMe/NMe DNA比を求めたところ、肝癌症例の血清では全例で定量が可能であり、正常者では血清中にMe-DNAは検出されなかった。脈管浸潤のある肝癌例の血清では、脈管浸潤のない肝癌血清より有意に高レベルのメチル化DNAが検出された(p=0.0013)。また肝癌再発の際には、従来の腫瘍マーカーであるAFPよりも早期に検出され、治療による低下もAFPより早期に認められた。微量血清より、高感度に腫瘍由来DNAに対する非腫瘍由来DNAの比率(Me/NMeDNA比)を求めるアッセイ系を確立した。腫瘍の増殖状態ではこの比率が上昇し、非増殖状態では低下することが予想される。この方法は、dormant therapyを始めとした化学療法の効果判定に有用なマーカーになり得る可能性がある。
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