我々の検討課題としてC型肝炎ウイルス(HCV)の増殖を制御する因子についての検討を試みている。特に細胞内シグナルはHCVの増殖を劇的に変化させるものであり、HCV治療にも応用が期待される。既報の通りPI3キナーゼ/Akt/mTOR経路は強いHCV抑制活性を持ち、またその阻害剤であるラバマイシンによりHCV増殖が増強することが知られている。今回我々は検討課題の一つであるPI3キナーゼ経路について、それを抑制するマイクロRNA(miRNA)を同定し、それによるHCV増殖の修飾作用を見いだした。HCVを肝癌細胞株であるHuh7細胞に感染させると複数のmiRNAの発現に増減がみられたが、そのうちの一つであるmir-491は、HCVレプリコン細胞に導入するとHCVの増殖が促進するという結果が得られた。そこで、HCVの翻訳に関するHCV IRESの活性を検討したが、mir-491による明らかな増加はみられなかった。また、mir-491は細胞機能そのものにも影響し、cap依存的な翻訳を抑制し、また細胞増殖も抑制するものであった。細胞増殖が低下するとHCV増殖も低下すると思われるにもかかわらず、HCVの増殖が促進する理由についてさらに検討を進めたところ、mir-491はAktのリン酸化を強く抑制することが明らかとなった。mir-491を導入した細胞にPI3キナーゼの阻害剤であるLY294002を添加して培養を行うと、mir-491によるHCV増殖の促進効果は減弱することからも、mir-491の作用はPI3キナーゼの抑制によるものであろうと考えられた。今後の検討として、ウイルス粒子系性能への影響、mir-491の発現調節機構mir-491によるPI3キナーゼ抑制に関わるメカニズムについて解析をすすめ、またそれ以外にも細胞内シグナルを介してHCV増殖を修飾する因子について検討を広げていく予定である。
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