我々の検討課題としてC型肝炎ウイルス(HCV)の増殖を制御する因子についての検討を試みている。その目標として細胞内シグナルを調節することにより、最終的にHCV増殖を外部よりコントロールすることにある。今回我々は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)に着目して、HCV増殖との関連について解析を行うこととした。BCAAは必須アミノ酸の一部であり、生体に重要な栄養素として以外にmTORシグチルを活性化するという生理活性作用を持つ。また、慢性肝疾患、特に肝硬変期の低蛋白血症に対する治療薬としても使用される。mTORシグナルはHCV増殖を抑制する作用があるため、BCAAは抗HCV作用が期待され、さらに副作用が少ないという面からも十分な実用的で有用性が高いと思われる。そこで、まずHCV増殖の培養細胞系である、HCVレプリコン細胞を用いてBCAAの役割を検討した。BCAAを含まない培地にBCAAを添加して細胞培養を行ったところ、BCAA存在下でHCVの有意な抑制が濃度依存的に認められた。BACCによりmTORの活性化が確認されたため、mTOR阻害剤、である.ラパマイシンを添加して同様の実験を行ったが、ラパマイシン存在下でもBCAAによりHCVの抑制が誘導された。一方、HCV感染Huh7細胞にて同様の検討を行ったところ、逆にBCAAの濃度依存的にHCV蛋白およびRNA量の増加が認められた。そこで、ウイルス粒子を形成するHCV株と、2アミノ酸置換のため粒子形成々持たないHCV株を作成し、BCAAの影響を比較検討した。HCV粒子を形成する株ではBACCの添加によりウイルス増殖の増加が見られたが、粒子形成のない株ではBCAAによりウイルス増殖が抑制された。よって、BCAAはHCVゲノムRNAの複製の過程ではHCV増殖を負に制御し、ウイルス粒子形成から粒子の放出、再感染にわたる過程においては、BCAAは逆に促進するものと考えられた。今後の課題として、BCAAの作用を詳細に解明することがHCV増殖に携わる細胞内因子の同定につながり、さらには将来的な抗HCV療法へと発展していく可能性が考えられた。
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